この夏休みの、出来事だ。
25℃平均のボストンから猛暑の東京の自宅に帰った。
カーテンを思い切り開けた。もわっとする空気とともに地べたを黒いものが走った。
「ぎゃわ!」と発した私、ヤモリだ…。
しばし、彼とにらめっこをした、とたん、しっぽをひるがえして彼は逃げた。
ソファをどかし、クッションを投げ捨て、奮闘すること15分。彼は素早くいずこかへ消えていった。
真夏化していた外から日陰を探して家の中に隠れたのか?その後、私たちは次の避暑、北海道へと発つ。
彼の小さな彼の存在をすっかり忘れていた。
1週間後、8月末になったにもかかわらず、東京は相変わらずの猛暑だった。もわっとする空気をカーテンを思いっきり開ける事で、吹き飛ばすつもりだったのだろうか?そとも、中も熱風が部屋中を覆っている。
家中の窓を開け、空気を入れ換える。寝室の窓を開け、ドアを全開していく。
「彼だ。彼が小さな体をさらに小さくしていた。」夏の忘れもののように彼は干からびて、廊下の片隅で息絶えていた。猛暑は彼を助けてはくれず、逃げ延びた先にも容赦なく襲いかかっていたのだ。
ヤモリは【守宮】あるいは【家守】と呼ばれ、害虫を捕食することから家を守るとされている。黒焼きにすると媚薬になるともいわれているが、我が家を守り切れず、媚薬寸前の姿はなんとも悲しみを誘う。2010年夏の東京はヤモリたちにとっても住みにくい場所へと変わりつつあるのだろうか?